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いつかまたここで 1

Posted by 華蓮 on 09.2014 0 comments
★タクミくんシリーズ「station」華蓮的補完計画目次★

***********************



春。
ぼくと政貴は私立音大へと無事入学することができた。

大学の授業と平行して、須田先生にも師事することで、
自分の技術面を徹底的に見直しすることになった。

最初の1年は本当に寝る時間も惜しん、朝も昼も夜もバイオリン漬け。
たぶん、寝ていたとしてもきっと指が弦を押さえていたんじゃないかと思う。
それが結果的に余計なことを考える時間をぼくに与えることがなくて、
更に集中してバイオリンと真摯に向き合う時間となって、ちょうどよかったのかもしれない。


きっと、ぼくに時間があったら、思うようにいかなくて、
一人で抗い続けているだろうギイのことを考えてしまっていたと思うから。


祠堂を卒業する日。
卒業証書を片手に校門へ続く道を横目にぼくは一人寮へと足を向けていた。
ガランッとした寮の中を迷いなく進んで、
ノックをすることなく足を踏み入れた場所は、3階ゼロ番。
室内は少し埃っぽくて、ギイとよく逢瀬を重ねていたあの部屋を思い出した。


「……ギイ……」


呼んでも返事なんて返ってこない。
ズボンのポケットに入ってるおそろいの考えるのも恐ろしい高性能なケータイも
依然として画面は真っ黒のまま使えない。
あの突然の別れから今まで、ギイからの連絡はぼくのところはおろか、
相棒である赤池くんにもなく、あの佐智さんですら、直接話すことはできないと聞いている。
それだけギイの生きている世界は、ギイの思うようにはできなくて、
ぼく達がなんでもできると思い込んでいたギイでも、
まわりの大人に本気を出されたら、ほんの一瞬で蚊帳の外。
ぼく達はきっと、世界はこの箱庭のような学園の延長線上にあるのだと、
どこかで淡い期待をもっていたのだと思う。
………そう、ギイが誰に一言もなく、この学園を退学するまで。


「……ここにいたのか、葉山」
「赤池くん」

背後から肩をぽんっと卒業証書の入った筒で叩かれて振り返る。
赤池くんもまた、ぼくの横にならんで住人のいない3階ゼロ番を眺める。

「……メルヘンなコーヒーもしばらく飲んでないよな、そう言えば」
「そう言えばそうだね」
「……やつも飲んでないんだろうな」
「………飲んでないだろうね」

意外とギイ……寂しがり屋だったからなぁ。
きっと思い出すから、飲んでないと思う。ぼくたちと同じで。

「そうだよな……あんな彫刻みたいな顔してメルヘンなコーヒー飲んでたら、
ある種のホラーだと僕は思うがな」
「まぁ、雑誌だからね。ショーゾーケンの関係でほとんど載ってないし、
たまたまあんな写真が載ったのかもしれないけど」

ギイが退学してから、ギイに関わる情報はニュースや専門の雑誌
(ぼくには読むことができない外国誌ばかりだけど)で誰かれともなく、教えてくれた。
みんな、突然いなくなったギイが心配で、それと同時にギイがいなくなったぼくを
本当に親身になって心配してくれた。
ギイがいなくなって心にぽっかり穴が空いて、どうしたらいいかわからない気持ちになったのも本当。
でも、代わる代わるぼくを連れ出してくれて、それとなくそばにいてくれたみんなの気持ちが嬉しくて、申し訳なくて、ぼくは毎晩ベッドに潜り込んで泣いていた。
泣いて、泣いて、泣き止んで、夜空に浮かぶ星が本当にきれいで、いつかギイと一緒に観た流星群を思い出した。
また一緒に…今度は二人で流星群を観ようって約束したことも一緒に。


ねぇ、ギイ。
ギイはぼくといろんな未来の約束をしたよね。
そもそも、ギイはできない約束をする人じゃない。


『託生、頼みがある。オレと託生がつきあっていくということは、これから先も、ずっと、いろんな、たくさんの人たちを欺くことになるのかもしれない。そのつど悩んだり迷ったりするんだろう。だがどんな時も、託生はオレのそばにいてくれ。オレの側で、オレの共犯者になってくれないか』


ふと、その言葉を思い出した。
そう、ぼくはギイの共犯者になると約束したじゃないか。
だったら、共犯者であるぼくが今するべきことは泣くことじゃない。
ギイのそばにいるために、ぼくができる最大限の努力をするべきだ。
会えなくても、音なら届けられる。
ぼくのバイオリンの音が少しでもギイに届きますように。
ギイに届いたぼくのバイオリンの音がどうか、ギイを支えてくれますように。
ぼくはギイの為にバイオリンを弾く。
ギイが会いに来れないなら、ぼくが会いに行く。
そう、それがぼくが決めた未来。


「いや、あの目はあの時の目によく似てるよ。3年に上がったばっかりのマイナーチェンジ」
「マイナーチェンジって………ねぇ、赤池くん」
「なんだ?」
「………ぼくは、ギイに会いに行こうと思うんだ」
「葉山?」

ぼくの言葉に一瞬ぎょっとした顔を向ける赤池くんに小さく笑って、ひとつ頷いた。

「もちろん、今すぐじゃない」
「………会える補償なんぞ、ないんだぞ?」
「そうだね」
「………それに、連絡……ないんだろ?」
「うん。ないね」
「………葉山……その、な……」

すごく言い難そうに赤池くんは視線を反らす。
うん、わかってるよ。言いたいこと。

「ギイから連絡がないのは、別れたいって思ってるかもしれないってこともわかってるよ」
「葉山……」
「それでも…ギイの口からもう会いたくないって言われるまで、僕は諦めないことにしたんだ」
「………」
「あのギイが佐智さんにすらまともに連絡が取れない状況に置かれてるんだもん。世情にうといと言われ続けるぼくでも、そんな簡単にギイと会えるとは思ってない。だけど、ギイはぼくに会うために3年前ここに来てくれた。そして、ぼくに本当にいろんなものを…たくさんの宝物をくれた。だったら、今度はぼくの番だと思うんだ。同じ年月ををかけてでも、ぼくはギイに会いに行く。ギイの支えになるために。………えらそうなこと言っちゃったけど、ギイの笑った顔が見たいだけなんだけどね」

えへへって笑ってみせたぼくに、赤池くんは最初唖然として、
その後顔をくしゃくしゃにして、そのままの勢いでぼくの頭をぐしゃぐしゃっと乱暴にかき回した。

「えっ…ええっ!!な、ななななにするんだよ!」
「うるさい!」
「なんで逆ギレ!??っていうか、髪がぐしゃぐしゃになるよ!赤池くん!!」

どうにか開放されて、ぼさぼさになった髪を手櫛で元に戻しながら、
この理不尽さに文句をつけようと睨み付けようとして、ぼくは固まった。

「……あ、ああ赤池くん??」
「……くそっ。なんか…葉山ごときの言葉にうっかり感動するとか屈辱だ……」
「は?」

「ぷっ!!あははははははっ。だせぇ!赤池だせぇ!」
「笑っちゃ悪いよ、矢倉くん」
「あ!矢倉くんに野沢くん!」

振り返るとそこには3階ゼロ番の扉に手をかけて、目に涙を溜めながら笑う矢倉くんと、その横に悠然と立つ野沢くんがいた。

「みんな考えることは同じだね。最後にこのゼロ番を見ておこうと思ったら、偶然階段で矢倉くんとばったり」
「そうそう。んで、来てみれば赤池が葉山に泣かされる図とか、レアすぎだろ」
「くそっ……また、面倒なヤツに……」
「くくくっ…まぁ、これでもう笑い収めだろ。そうそう頻繁に全員で会うこともねぇんだし」
「確かにね。ただ、同窓会とかで集まる度にからかわれるネタになるかもしれないけれど」
「………悪夢だ……」

がっくりと項垂れる赤池くんに矢倉くんも野沢くんもまた笑って、その笑顔のまま、
視線はぼくへと流れてきた。

「あの交換留学制度…狙うのかい?」
「「交換留学?」」

野沢くんの言葉に反応したのは矢倉くん。
項垂れていた赤池くんも顔を上げた。

「来年度から導入されるらしいんだ。成績優秀者への奨学金併用の交換留学制度が。留学先にニューヨークも入ってる」
「「へぇ~」」

野沢くんの説明に二人して頷いていたけれど、

「……どうかな。交換留学に惹かれないと言ったら嘘だけど。そこを目指しているわけじゃないんだ。ぼくはぼくのバイオリンの音がギイに届いたらいいんだよ。一度は手放したバイオリンをもう一度手に握らせてくれたのはギイだから。ギイはぼくのバイオリンが好きだって言ってくれた。だったら、ぼくはギイの為に弾くよ。そして、いつかギイの耳にまで届くような音でバイオリンが弾けたらいいんだ。音だけでもギイにはぼくだってわかるはずだから」
「………葉山くん」
「葉山……」
「……葉山」

3人が3人ともぼくを見て優しく笑ってくれたから、
ぼくも3人に笑って見せた。


そして、約束した。
いつかまたこの場所で、今度はギイもいれてみんなで会おうって。


そう、約束した。







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